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2021/09/13 14:58


 定期刊行の雑誌を新創刊することで、僕がやりたかったことの一つが小説を掲載すること、です。いろいろ考えに考えて、依頼したのは浅生鴨さん。僕が知り合ったのはもう10年以上前で、彼がまだNHKにいたころでした。その後すぐに、NHK_PR1号としてちょっと変わったかたちで有名になっていって、2014年に退職、その後「浅生鴨」というペンネームで作家として活躍しているのはみなさんもご存知ではないかと思います。

 僕の最初の依頼は短編集『猫たちの色メガネ』の1編のようなもので、短くてもいいから強烈な読後感を残すもの、ただしSNS的なザラついた感じではないもの、というものでした。我ながら抽象的で、書くほうとしては困る言い方だな、と思うのだけれど、浅生さんならこういう言葉から、たとえそれが誤解であったとしても何かを受け取って、創作の手がかりにしてくれると信頼していたからです。

 で、ここからが問題なのですけれど、僕がお願いしたのは原稿用紙40枚(16000字)程度の短編だったのですが、上がってきたのはなんと100枚(40000字)の中編でした。おいおい、勘弁してくれよ、と苦笑いしながら受け取った原稿を読み始めたのですが……気がついたら夢中で読み耽って、最後まで一気に読み通していました。そして次の瞬間、僕はスタッフに台割の組み換えと、イラストレーターの選定を相談していました。

 タイトルは『穴』。この「穴」とは何か。ネタバレになるので詳しいことは書きませんが、僕の解釈ではこの「穴」は、それが空くことで僕たちの生きるこの世界の息苦しさを解消してくれるものです。しかし、その穴は空けようとしても、空けようとしてもどんどん自分たちの手で埋められてしまう。そんなシステムに僕たちの世界は覆われている。「穴」はどこにあるのか。どうすれば、埋められない「穴」は存在できるのか。浅生さんの深い絶望と静かな怒り、そしてこういった感情をじっと熟成することで想像力を遠いところまで持っていこうとしているのが伝わってくる小説です。久保田寛子さんの挿絵イラストも、ラフをいただいていますが、とても素敵です。お楽しみにお待ち下さい。

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